クラウドの知能(会話・VLM 判定)とエッジのリアルタイム制御(Thor 上の VLA)を IoT Core の MQTT で疎結合。「考えるのはクラウド、動くのはエッジ」という王道アーキを 1 デモで体現。
面倒なことは Physical AI にやらせよう! 〜家のお片付けロボット〜 / システム全体像ドキュメント
「Physical AI の時代が来た」とよく言われる。Amazon にとって、それは未来の予言ではなく、毎日の現実だ。
私たちは世界中の倉庫で 100 万台を超えるロボットを動かし、フリート全体を協調させる基盤モデル(DeepFleet)まで自分たちの現場規模で運用してきた。「現実世界を AI で動かす」難しさに、毎日ぶつかって、毎日解いてきた会社だ。その実装と運用で培ったものが、AWS という形で開かれている。
数ヶ月かかる学習を GPU シミュレーションで数時間に圧縮し、鍛えた頭脳を実機へ移し(Sim2Real)、エッジで低遅延に動かし、多数台を束ねて運用する——Physical AI の長い道のりを、最初から最後まで一つの土台の上で組める。それが AWS を選ぶ意味だ。
この「しまってAI」は、その一気通貫をスライドではなく、目の前で動く一台でお見せするデモだ。本ドキュメントはその設計の全体像をまとめている。あなたが次に動かす一台も、ここから始められる。ぜひ、声をかけてみてください。ざわ…ざわ…
正式タイトル:面倒なことは Physical AI にやらせよう! 〜家のお片付けロボット〜 / コードネーム:しまってAI
出展:AWS Summit Japan 2026 / Builder's Fair / Hall7 BF-01
来場者がマイクに話しかけると、キャラクター「お片付け幽霊」が応答し、ミニチュアハウス内の SO-101 ロボットアームが消しゴムやマーカーを自動で片付ける Edge-to-Cloud の Physical AI デモ。
「散らかった家を片付けるのは大変。ロボットが勝手に片付けてくれたら」という日常課題を、Physical AI と IoT 対応ロボットで解決して見せる体験型デモ。
クラウド(リアルタイム制御系)/エッジ(Jetson Thor)/学習パイプライン(オフライン)/物理ブースの4レイヤーで構成される。
本図は計画仕様を含む統合ビュー。点線(破線)の経路 ── 照明のクラウド制御と俯瞰画像の VLM 成否判定 ── は現リポジトリのコードには未実装。実装済みの構成(コード検証済み)は本セクション下部の「実装版 E2E アーキテクチャ」図を参照。
上図は計画を含む統合ビュー。下図は 実際にコードへ実装されている構成をリポジトリ精読で確定した実装版 E2E アーキテクチャ。推論・会話・IoT 制御はすべて ap-northeast-1 単一リージョンで完結する(学習系のみ別リージョン、§06 参照)。会話エージェントは Bedrock AgentCore Runtime(ECR コンテナ上で動く Strands Agents + FastAPI WebSocket)として稼働し、Transcribe・Bedrock Claude・SageMaker TTS を呼び出して IoT Core 経由でエッジへコマンドを publish する。
| レイヤー | 要素 | 役割・備考 |
|---|---|---|
| クラウド:会話 | Strands Agents | クラウド上のボイスエージェント本体。指示の解釈・会話・アクション発行を統括 |
| Amazon Bedrock | エージェントの LLM。会話応答とアクション判断 | |
| Amazon Bedrock(VLM) | 行動後の俯瞰カメラ画像を見てタスク成否を判定(クローズドループ)計画 | |
| Qwen3-TTS(SageMaker 推論EP) | 音声合成(TTS)。「お片付け幽霊」のキャラボイスをボイスクローンで生成。ストリーミング推論。Amazon Polly(Kazuha)はエンドポイント未設定時のフォールバック | |
| 音声認識(STT) | マイク入力をテキスト化。= Amazon Transcribe Streaming | |
| クラウド:通信 | AWS IoT Core | MQTT ブローカー。クラウド↔エッジの司令(shimatte/command)・状態(shimatte/status) |
| クラウド:配信 | CloudFront + S3 | アプリ画面・学習ダッシュボード・展示説明資料(HTML/PDF)の静的配信 |
| クラウド:学習 | SageMaker AI(Training) | VLA モデル(π0.5 / ACT / GR00T 等)の模倣学習 FT ジョブ |
| SageMaker MLflow Apps | 学習を Experiment として記録。実機推論時の Artifact も保存しトレース可能 | |
| GPU 学習インスタンス | g6.2xlarge / g6e.2xlarge。20 エピソードで 6 時間程度の学習を想定 | |
| AWS Systems Manager | Thor 内へリモートアクセスし S3 へデータアップロード等を実施 | |
| クラウド:シミュレーション | NVIDIA Isaac Sim | Sim 版データ収集環境。Sim2Real を見据える |
| エッジ | NVIDIA Jetson AGX Thor | エッジ推論機。VLA をローカル実行(Orin から Thor に変更) |
| Strands Robots | Strands Agents のツールとして VLA/ロボット制御を扱うフレームワーク(lerobot をラップ) | |
| AWS Systems Manager | ハイブリッド有効化で Jetson をクラウド管理。send-command でエッジへモデル配信(エッジが S3 から presigned URL で取得) | |
| AWS IoT Greengrass | モデル自動配信の将来オプション(nucleus は同居・配信には未使用) | |
| VLA モデル | 3つの VLA を並行学習・実機検証。本番ブースのライブデモは ACT が3タスク(消しゴム・マーカー・サイコロ)を実行。① π0.5(lerobot/pi05_base, PaliGemma 2B + Gemma 300M ベース)=大型・汎化に強い本命格(検証で3タスク)、② ACT=VLA の前身(言語指示なしの模倣学習)・軽量・タスク特化(本番ライブ採用=3タスク統合の単一モデル)、③ GR00T N1.5〜N1.7 系(NVIDIA, 赤ペン掴み上げを実機検証)。いずれも SageMaker で学習。SmolVLA も検証 | |
| ロボット | SO-101 ロボットアーム | フォロワー x2 + リーダー x1。Hugging Face LeRobot 系の安価な教育用アーム |
| センサ/環境 | 俯瞰カメラ x1 / 手先カメラ x2 | OBR-WEBCAM200(俯瞰)、InnoMaker U20CAM-1080P(手先)。ChArUco でキャリブ済 |
| LED 照明 x4 | USB 給電・常時点灯。外乱光を抑え VLA の動作を安定化。「クラウドから ON/OFF 制御」は構想のみで未実装 |
来場者が「消しゴムを片付けて」と話してから、ロボットが動き、成否を喋るまでの一連のシーケンス。
このシーケンスには性質の異なる2種類の推論が混在している。混同しないことが Physical AI 設計の要点。
| リアルタイム制御ループ | 行動後の成否判定 | |
|---|---|---|
| 中身 | カメラ映像→関節角を毎秒何十回も出力 | 「片付いた?」を画像で1回だけ評価 |
| 遅延要件 | シビア 遅れると制御が破綻 | 緩い 1〜2秒許容 |
| 置き場所 | 必ずエッジ(Jetson 上の VLA) | クラウドでも可(Bedrock VLM) |
アプリ画面を通じて、来場者は「お片付け幽霊」と対話しながら以下のモードを行き来する。会話の選択肢はマイク発話で選べ、フォールバックでマウス操作も可能。
| モード | 内容 |
|---|---|
| 会話モード | お片付け幽霊と雑談。選択肢を画面表示し、来場者はマイク発話で選択(フォールバック:マウス) |
| VLAアクションモード | 音声指示で VLA がアームを自律制御。動作後に俯瞰画像を VLM 判定し、成功なら歓喜、失敗なら謝罪して手伝いを要請 |
| 手動操作モード | VLA 失敗時、または来場者がボイスで明示指定した時に起動。手元の SO-101 リーダーアームを握ってフォロワーアームを直接操作(テレオペ体験) |
※ 各タスクの前に、展示員が手動で場をセットする運用。
当初は「両手(双腕)同時動作」を想定していたが、VLA アクションは片腕のみ推論利用に変更(双腕学習は断念)。サイコロタスクは左右の腕を使うが、これは交互動作の演出。
デモの肝は「ロボットが学習で動く」こと。テレオペでの模倣学習データ収集 → クラウドで FT → エッジへ配信を回す。Sim2Real も組み込み予定。
補足:学習方式は強化学習ではなく模倣学習。Sim(Isaac Sim)は報酬で試行錯誤させる場ではなく、お手本データの自動生成・並列収集・事前検証に使う。
下図は shimatte-ai-training リポジトリの精読で確定した実装版。学習・研究系はすべて us-west-2(研究アカウント)で動作する。SageMaker Training で π0.5 / ACT / GR00T(N1.5〜N1.7 系)/ SmolVLA を学習し(ml.g5.2xlarge、GR00T のみ ECR カスタムイメージ)、SageMaker MLflow と Model Registry で管理する。学習済みモデルの IoT Greengrass によるエッジ配信は今後の構成(本デモ時点では未実装)。本番ライブの実機には ACT を採用(π0.5・GR00T・SmolVLA も実機で検証)。強化学習(Isaac Sim + AWS Batch)は Phase5 の計画(破線)。
| 比較対象 | エピソード数 | 収集時間(1エピ=30秒換算) |
|---|---|---|
| 事前検証(消しゴムピック) | 20 エピソードでも動作 | 約 10 分 |
| 本デモ目標 | 50 エピソード | 約 25 分 + 照明バリエーション分 |
当初 700×700×900mm を検討したが、SO-101 の到達範囲だと壁に当たるため拡大。最終的に 97×65×65cm に確定(上面図では 640×940mm)。フレームはミスミ HFS6-3030 系、π字金具・L字金具で接合、天板は 900×600 ベニヤ/低発泡塩ビ、側面はベニヤ/プラダン、床は元机に黒画用紙。
| 画面 | 設置場所 | 表示内容 |
|---|---|---|
| アプリ画面 | 筐体裏の備付ディスプレイ | 来場者が「お片付け幽霊」と対話する UI。会話の選択肢表示、マイク入力 |
| Thor画面 | 持込 PC モニタ | 操作中のカメラ映像を常時表示(ロボットが今何を見ているか)。Isaac Sim の位置表示も検討 |
| 展示説明画面 | 筐体横ディスプレイ | 展示概要・アーキ図・データ取得・シミュレータ・AWS説明・VLA/基盤モデル説明を HTML でループ。QR から該当ページ、PDF も配布 |
| 分類 | 品目 | 仕様・型番 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ロボット | SO-101 アーム x2 | Hugging Face LeRobot 系 | フォロワー。実売 4 万円級 + 3Dプリント部品 ~6,000円 |
| ロボット | SO-101 リーダーアーム x1 | — | 手動操作・テレオペ用。ディスプレイ台にクランプ |
| エッジ | Jetson AGX Thor 開発者キット | 945-14070-0080-000 / 約 53.3 万円(税抜) | NVMe 1TB SSD。Orin(64GB 約 31.9 万円)から変更 |
| カメラ | 俯瞰カメラ x1 | OBR-WEBCAM200-K(640x480, FOV対角 49.9°, f6.45mm) | ChArUco でキャリブ済 |
| カメラ | 手先カメラ x2 | InnoMaker U20CAM-1080P(640x480, FOV対角 72.5°, f3.07mm) | 広角・糸巻き歪み |
| 筐体 | アルミフレーム | ミスミ HFS6-3030-885-LDV-RDV x4 + HFS6-3030-885 x1(梁) | π字金具 HSJNS6 で接合 |
| 筐体 | 天板 | 900x600 ベニヤ板 / 低発泡塩ビ フォーレックス | 溝にはめ込み |
| 筐体 | 側面・背面板 | ベニヤ / プラダン | 外側から固定 |
| 照明 | LED バーライト x4 | USB 給電(Amazon の安価品) | 高さ 80cm から照射。白飛びはゲイン調整 |
| 3Dプリント | カメラマウンタ x4 | SO-ARM101_camera_wrist_mount.stl | TheRobotStudio/SO-ARM100 |
| 3Dプリント | ソフトフィンガー | XLeRobot SO101_soft_fin.stl | 爪先 TPU 95A(柔軟把持)+ その他 PLA |
| 3Dプリント | SO-101 3030 ブラケット | 自作設計 | アームを 3030 フレームに固定。後方オフセットで梁へのモーメント低減 |
| その他 | パネルクランプ / USB Hub / 電源タップ / 黒画用紙 / 作業台 x2 | — | — |
クラウドの知能(会話・VLM 判定)とエッジのリアルタイム制御(Thor 上の VLA)を IoT Core の MQTT で疎結合。「考えるのはクラウド、動くのはエッジ」という王道アーキを 1 デモで体現。
会話エージェント(Strands Agents)とロボット制御(Strands Robots = lerobot ラップ)を同一フレームワークで統一的に扱える実機事例。AWS の新エージェント基盤の Physical AI 応用。
テレオペ収集 → S3 → SageMaker FT → MLflow → Systems Manager + S3 でエッジ配信。MLOps を物理世界に拡張した一気通貫。ダッシュボードで「学習で動く」過程を可視化。
行動後に俯瞰画像を VLM で評価し成否を自己判定。失敗時は助けを求める。単発再生でなく知覚-行動-評価のループが技術的見どころ。計画
実機データ収集の労働集約性を、シミュレーションデータで補完。Isaac Sim で Sim と Real を並列収集する設計。
SageMaker MLflow で各学習を Experiment 記録、実機推論時の Artifact までトレース。「再現性のある ML」を物理 AI でも担保。
実売 4 万円級の SO-101(+推論用 Jetson Thor は別途約 50 万円台)でも、AWS のマネージドサービス群だけで企業級 Physical AI デモが構築できる。アーム自体は安価で、AWS のマネージドサービスで同等の構成が組める。
音声対話 + キャラ(お片付け幽霊)+ 手動操作(テレオペ)体験で来場者参加型。技術的な硬さを和らげ、立ち寄りやすいブースに。
展示終了後も継続的な訴求材料として再利用できる。安価な構成で先進的な Physical AI 体験を AWS 上で実現できることの証明になる。